生涯を通して3万点以上の作品を描き残したといわれる浮世絵師・葛飾北斎。
1998年に米誌『ライフ』が企画した「この1000年間に偉大な業績をあげた世界の人物100人」に、日本人では葛飾北斎だけが選出され、世界一有名な日本人画家として愛されています。
今回は、葛飾北斎の代表作とも言える「富嶽三十六景」のとりわけ人気作品である「神奈川沖浪裏」を徹底解説していきたいと思います。
富嶽三十六景とは?
多くの人々が「北斎=風景画」をイメージするのではないでしょうか。
これらは「富嶽三十六景」シリーズによって生み出されたものではないかと思っています。
この世界的に有名な作品は、北斎が70歳の頃に作られ、全46枚からなる、わずか4年間の間で完成したシリーズでした。
斬新な構図やベロリン藍(西洋から輸入された人工顔料ベルリアンブルーのこと)による色彩の美しさが特徴です。
神奈川沖浪裏
巨大な波が今まさに砕け落ち…流れ落ち…。
小舟は襲いかかる大波にあらがうこともできないまま、ただ潮流に身を任せるしかないような迫力あるモチーフ。
北斎はその光景をまるで同じ舟に乗っているかのような、低い視点で描かれ、荒々しくも雄大な大自然を見事に表現した作品です。
1/5000秒の超高速スピードシャッターでとらえたような「波」の表現力
望遠や接写を巧に使い分ける北斎の眼は、まさにカメラそのものでした。
「神奈川沖浪裏」の波頭のとらえ方は、1/5000の超高速スピードシャッターを切った瞬間のようだと言う説もあります。
引く波と、寄せる波。
波の表と裏の違い。
当時の絵師が絵こうともしなかったものまで北斎は追求しました。
神奈川とは
そもそも神奈川とは、県などの名前の由来になった東海道3番目の宿駅で、街道沿い神奈川湊がひらけていました。
その沖合から富士山を眺めていた図がこの作品です。
描かれている舟は「押送舟(おしおくりぶね)」と言って、伊豆などで採れた鮮魚を帆と櫓(ろ)を併用して江戸に運んだ快速船です。
富嶽三十六景のココがスゴい!
北斎の得意としたテクニックとして、「あるものは強調して、他は省略する」「限られた色数とスペースの中で最大限の効果をあげる」という二つの点があります。
それらが凝縮されたのが富嶽三十六景です。
しかし、私生活の面では受難の時代だったようです。
北斎の書簡の中で、「当春ハ、銭もなく、着物もなく、口を養うのみにて…」と極貧っぷりを語っています。
また、この作品は海外のクリエイターやアーティストに高く評価され、クラシック音楽作品の元ネタになっていたりもします。
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